気象ゼミごっこ

気象予報士試験に向けて、大学のゼミみたいに勉強するブログ

台風の話

久々に気象学っぽい内容を…😃

台風のお話をしていきたいと思います。

 

 

 

地球は球体なので高緯度側で熱が不足し低緯度側で熱が余るはずであるが、年間を通じてこの偏りを解消するような機構が地球には備わっているという話をしました。

meteorolo.hatenablog.com

 

その1つとして、中緯度帯では南北の水平温度傾度の大きいところで温帯低気圧が発生しているという話もしました。

 

meteorolo.hatenablog.com

 

台風の定義 

 

低気圧にも色々種類がありますが、温帯低気圧に次いでよく耳にするのが、熱帯や亜熱帯の海洋上で発生する熱帯低気圧です。

熱帯低気圧のうち、赤道より北で100°Eと180°Eの間の北西太平洋域に存在し、最大風速が17.2m/s以上になったものを台風と呼んでいます。

 

 

台風の原動力 

温帯低気圧の原動力となっているものは、冷気が沈み込み暖気が上昇するために生じる位置エネルギーでしたが、台風の原動力となっているのは、水蒸気が雲になるときに放出する熱(潜熱)です。

 

温帯低気圧は気団の異なる性質の気団がぶつかることでできるのに対し、熱帯低気圧は単一の赤道気団という高温多湿な気団の中でできます。

 

海面水温は日射や海流に影響されますが、海面水温の高い海上では、下層の空気が昼夜問わず暖かく湿っています。下層の暖かく湿った空気は潜在的に不安定な状態で、なんらかのきっかけでその下層の空気が上昇すると、凝結して雲が発達します。

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赤道低圧帯は南北からの貿易風が収束し上昇気流しやすい場所ですし、強い日射によって上昇気流が発生することもあります。

こうして暖かく湿った空気が持ち上げられることにより、多数の積乱雲が生まれます。

このような積乱雲の集団をクラウドクラスターと言います。

 

気象衛星センター クラウドクラスタ

https://www.data.jma.go.jp/mscweb/ja/prod/pattern_12.html

 

個々の積乱雲の寿命は数十分ほどですが、組織化することで数日単位で活動します。

ある領域の中でたくさんの積乱雲が発達して消滅していたら、そこに水蒸気が凝結するときの熱が放出され蓄積され、上空の空気が暖まってきます。

すると、地上の気圧が下がります。こうして弱い低圧部が作られます。

 

低圧部には風が流れ込んできますが、地球が自転していることにより気圧傾度力を直角右向きに変えようとします。(コリオリ力

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熱帯低気圧コリオリ力が十分に働く北緯5°以北で発生します。

コリオリ力は渦が発生するための条件となっているんですね。

 

コリオリ力と渦といえば…

以前にもご紹介しましたが、絶対渦度保存則という法則があります。

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このいきなりコリオリパラメーターが出てくる感じ、戸惑いますよね。

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「渦度は角速度の2倍なんだ」というワンクッションがないと私は腑に落ちないのですが、やっぱり渦を考えるとなると、どのくらい自転の効果が効いているかということが重要になるんですね。

 

熱帯や亜熱帯で発生した熱帯低気圧が発達して台風になり日本にやってくるのは、台風が北へ進もうとする性質があるからです。

 

これも絶対渦度保存則で考えることができます。

 

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この北に進みたがる性質やベータ効果、大規模な風系(偏東風や偏西風、太平洋高気圧の縁辺など)に影響されながら進みます。

 

さて、熱帯低気圧の原動力は潜熱だと言いましたが、台風として発達していくにはエネルギーを組織的に補給していくような仕組みがあります。

 

多量の水蒸気が凝結するときに放出される潜熱によって空気が暖められると、空気の密度が小さくなるので、地表面の気圧が小さくなります。

※静力学平衡

 

meteorolo.hatenablog.com

 

地表面の気圧が大きく下降すると低気圧となって、そこに周りの空気が集まってきます。台風の周りの暖かく湿った空気が渦巻きながら中心に吸い込まれていって収束し、(地表面付近では摩擦を受けるため中心に収束する)上昇します。(連続の式)

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上昇したらすぐに飽和して、また凝結して膨大な潜熱を放出します。

そしてまた中心付近が高温になって、気圧が低下して…

このような連鎖反応で、効率的にエネルギーを取り込んで台風は維持・強化されます。

 

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台風は大体傾度風で近似されますが、地表に近いところでは摩擦力が働いて中心に向かう風向になっています。

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▼傾度風

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▲気象学入門より

 

 

台風の中心付近の風は高度が高くなるのにしたがって風速が小さくなります。

ここで思い出したいのが温度風という概念です。

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台風の場合…

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台風の中心上空に暖気核があることと台風周りの風速は温度風でつながるんですね。

 

 

 

台風は衰弱するとどうなるか

台風には水蒸気を効率的に補給するシステムがあると言いましたが、北上して海面水温の低いところにきてしまうと、北からの寒気が入り込んで温帯低気圧になったり、前線を伴わない構造のまま最大風速が17.2m/s未満になり熱帯低気圧に戻ったりします。

温帯低気圧化というとなんか安心してしまう雰囲気がありますが、台風が水平温度傾度の大きい中緯度にやってきたことでエネルギー源や構造は変わったものの再発達する恐れもあり、監視していく必要があります。

 

 

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特に私の好きな話を中心に、台風の話をしてみました。

ここ最近は日本各地で台風による被害が多いですね。

今も台風18号が日本に近づいてきていて、福岡ではじめじめとした暖かい空気に包まれています。

しかし、台風も温帯低気圧も地球全体の熱のバランスを保つために低緯度から高緯度へ熱を輸送しているということで、決して悪者ではないのです。笑

だからこそ、気象現象による被害は最小限にしたいですよね。

スーパーコンピューターによる予報の精度も上がっていて、危険であることが予想できている場合でも、台風が接近してきているのにサーフィンに出かけて人が亡くなる、みたいなニュースを耳にします。どうすればこういうことがなくなるんだろう…と思ったりします。

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